
今日はほんとうは35kmほど歩いて、内子町の龍王温泉に泊まろうと思っていた。
ところが電話をかけても通じず、どうやら宿をやめてしまったらしい。
今回は佐賀温泉といい、この龍王温泉といい、温泉にツキがない。
龍王温泉がダメとなると、明後日に鴇田峠を越える都合から、
今日はそんなに歩いても意味がない。
明日の宿まで歩く距離が50kmというのは確定だからである。
龍王温泉に泊まれれば、明日は観光しながら15kmを歩こうと思っていたのだが。
結局、その間に温泉宿はないのだが、ちょうど25kmの場所に大洲市街があり、
ここに「臥龍の湯」という、宿ではないが温泉があった。
そこでのんびり浸かろうと決める。
ここにきて、もはや温泉モードは替えようがないのである。
そうと決まれば、さっそく臥龍の湯から一番近い宿に予約の電話を入れた。
16時前には宿に入って、いそいそと臥龍の湯へ。
そして真っ先に向かったのは、マッサージの予約受付。
そう、目的が温泉というのもさることながら、
マッサージも大きな目的のひとつである。
ここまで、マッサージはまだ1回しか受けてない。
ちょっと大きい市街ではマッサージを受けようとしていたのだが、
四国はみな18時くらいには店じまいで、間に合わないのである。
臥龍の湯でやっているマッサージは「足つぼマッサージ」。
疲れてるのは足なので、まさにドンピシャである。
が、しかし、
狭いスペースに囲いだけ立ててやってるところに首を伸ばしたら、いきなり、
「すいません、今日はもう予約でいっぱいで……」
――なんたるツキの無さ。
思わず、あきらめ切れずに食い下がろうかと思ったが、それでどうなるものでもない。
隣の囲いを覗くと、おじさんが一人ぽつんと座って待っている。
GWだから、客が多いのかもしれない。
あきらめきれないまま、とはいえどうしようもないので、
――身体の疲労は温泉で癒してやる。
とばかりに、ずっと温泉に浸かってた。
1時間以上浸かってただろうか。
さすがにこれ以上は明日に響くと思い、上がって帰ろうとしたときに、
なんとなくマッサージの囲いを覗いたら、
なんと、さっきのおじさんがまだぽつんと座ってるではないか。
思わず目が合って、じっと見つめてしまった。
そして、ふと気がついた。
まさか……
「――いらっしゃい」
やっぱり。
このおじさん、待ってる客じゃなくて、マッサージをする先生である。
んで、よくその囲いを見回すと、「琉球整体」って書いてある。
ここには「足つぼマッサージ」と「琉球整体」の2つのマッサージ店が入っていたのである。
でも、一見まったく分からない……
どう見ても、「琉球整体」は「足つぼマッサージ」の待合室である。
知らない客は入り口に近い「足つぼマッサージ」で予約いっぱいと言われれば、
そのままあきらめて帰ってしまうだろう。
かくして、足つぼは満杯、琉球はガラガラである。
なにはともあれ、マッサージを受けられることとなり、
これまたよく見ないと気づかないようなところに貼ってあるコースメニューから、
とりあえず一番長かった50分を選択。
懇切丁寧に背中と足を解してもらって、その後ひざ下と足裏のオイルマッサージへと続く。
そして首、頭と、マッサージは続く……。
途中から気付いてはいたのだが、とにかく続く……。
そして、終わったときは、なんと1時間半以上たってた……。
50分と言ったんだけど聞き違えたのかなぁ、などと思いながら、
とはいえ、とても丁寧で、身体もかなり解れて気持ちよかったから、
高い値段でも払わなきゃなぁ、などと考えていたら、
「4千円です」
――50分の値段ではないか。
いや、時間が長かったから、と言ったのだが、
「はい、大丈夫です」
と。
思わず余分に払おうかとも思ったのだが、
これもお接待と同じで、気持ちを無駄にしてはいけないと思い直し、
納め札も持ち合わせていなかったが、素直に4千円だけ置いて帰ってきた。
感謝感謝である。
かくして、今日も心を洗われる遍路である。
宿:ビジネスホテルだいいち